ill-identified diary

所属組織の見解などとは一切関係なく小難しい話しかしません

RでOlley-Pakesの構造推定を書く例とbookdown

先日の第83回Tokyo.Rで構造推定に関する発表をした. 以前の発表資料(https://github.com/Gedevan-Aleksizde/20190703_ML_ECON)の加筆が直前まで長引いてたため, 正味3日くらいしか準備できる時間がなかった. そこで以前の発表ですこしだけ触れた構造推定について, 具体的に何をやっているのか掘り下げようとしてこのテーマを選んだ.


時間がないためなるべく簡単な内容にまとめようとしたが, 結局この分野では古典的なOlleyとPakesの研究を紹介しただけで, Rでどうやるかすらほとんど言えずに終わった. なので発表後Rのパッケージを使ってどう計算するかという話を大幅に加筆して, bookdownで作成した文書を公開した.

gedevan-aleksizde.github.io


本文でも書いているように, そもそも構造推定というのは決まりきったルーチンワークではないから, OlleyとPakesの方法を紹介したとしてもそれが構造推定の全てではないし, どんなデータに対しても彼らの方法をそっくりそのまま真似て計算するのも構造推定ではない. あとタイトルに「反事実分析」と書いたわりに結局「どこが反事実的なのか」というのが分かりにくい例を選んでしまった.

今回の発表についての補足説明

本文中では, いわゆる因果推論と対比する形で構造推定が存在する, 構造推定は理論モデルの仮定に強く依存する, というふうな導入をした. しかし因果推論がまったく仮定を要しないという意味ではない. この典型例がスライドで挙げているOstrovskyらの研究である*1. 彼らはゲーム理論的な経済モデルからウェブ広告の価格付けルールを求め, 大規模な実験によってそのルールが広告プラットフォーム運営者に利益をもたらすことを実践して示した. 私は構造推定を「理論モデルに基づくことで実験データを使わずとも経済現象を分析できる方法」と説明した*2ので, これに則して言えば理論モデルを実験で検証した彼らの研究は正確には構造推定ではない. しかしここから分かるのは, 構造推定であれ実験(例えばRCT)であれ, 明確な目的・問題意識のもとに実行することで大きな価値を生み出す, ということではないか. 自分の見える範囲のものしか見ようとしない, 自分の見えない部分に注意を払わない態度は何の進歩も産まない.

なので構造推定についてはこれ以降も機会があればRで実演する方法を紹介していきたい

今後の更新について

私の書くものは数式や図表を多く掲載する必要のあるものが多い. そのためLaTeXで書いたものをpandocで変換してはてなブログに掲載するということを続けていた. しかしはてなブログの構文は独自性が強く, 完全にうまく変換できるわけではないため, 毎回手動で調整していた. この調整に数時間かかるのは当たり前で, さらには前回のようにそもそもはてなブログにまともに表示されないということも発生した. なるほどbookdownなら長い文章も本のような体裁で表示してくれるし, Rコードを掲載するのも簡単である. 編集のたびにRで出力した画像を保存し直す必要もない. 現状ならhtml, pdfのいずれか1つを出力するならさほど難しくない*3. 今後はよほど短い文でない限りは, bookdownで作成してgithub pagesにするか, Rpubsに投稿することになり, このブログはツイッターアカウント同様に告知だけになることが増えそうである*4.

*1:Ostrovsky, M., & Schwarz, M. (2016). Reserve prices in internet advertising auctions: A field experiment (Working Paper No. 2054; GSB Working Paper, p. 23). Stanford Graduate School of Business. https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/working-papers/reserve-prices-internet-advertising-auctions-field-experiment

*2:これは山口先生のスライドでも同様の指摘がされている: https://docs.google.com/viewer?a=v&pid=sites&srcid=ZGVmYXVsdGRvbWFpbnxzaGludGFyb3lhbWFndWNoaXxneDoxYzg0NzQ4YjM4NDhkYmZi

*3:複数媒体に変換できるようにしようとすると難易度があがるし, 日本語の出力があまり考慮されていない. atsusy, kazutan, nozma氏らがこの辺の解説を既にいくつも公開しているが, こういった調整方法もまだまだ整備がすすんでいない.

*4:Rpubsは検索機能がない(参考: https://uribo.hatenablog.com/entry/2015/08/23/150645)のでこうやって外部で告知する意味はあるが